■ 一切れのパン by T ― 2021/07/05
今年の夏は今までとは違います。と申しますのは、4月に我が家初のエアコンが設置されたからです。1階と2階に各1台ずつ、それぞれ今までに1回ずつ試運転を行いました。効果抜群です。
とは言うものの、梅雨後半の蒸し暑い今日この頃、「エアコンをつけようかな」と思ってはみるものの、「まだ大丈夫かな」と結局つけずじまい。
実際に蒸し暑くても、エアコンというお守りが在るだけで、気持ち的に楽になり気分的に涼しくなったような錯覚を覚えるのは不思議です。
そんな時、ふと小学校の国語教科書に載っていた『一切れのパン』の物語を思い出しました。ストーリーはこんな感じでした。
第二次世界大戦中、敵国ドイツに逮捕された主人公は、仲間の者と収容所送りの貨車を脱走します。仲間と別れ際、脱走仲間のユダヤ人牧師が「パンをあげよう。でもなるべく我慢して食べないように。パンがあると思うだけで頑張れるから」と言って赤いハンカチ包みを主人公に手渡します。その後、主人公はとても辛い逃亡の日々を送り、その極限の中で何度も包みを解こうとしますが思いとどまります。そして国境を越え我が家にたどり着いた主人公は、妻の前で「このパンが私を救ってくれたんだ」と言い、包みを開けました。すると、中から転がり出たのはパンではなく、一片の木端でした。
「暑いねえ」と洩らせば、「そうね暑いわね」と返してくれる。その存在は、ただ返してくれるだけで何か実際に涼しくしてくれるわけではない。でもそういう存在が居てくれるだけで、長い人生何とかやっていける。人間とは不思議です。