One’s Way[ワンズウェイ]のブログでは、里山暮らしのあれこれを綴ります。ヘンリー・ デイヴィッド・ソロー の影響を受け、エシカルな暮らしを追求中。薪ストーブを暮らしの核とし、菜園、ガーデニング、サイクリング、ランニングなどを楽しんでします。

■ フリーダム・トレイル(その11:ウォールデン池)2017/02/13

2004年8月に私たちは旅行でボストンとコンコードを訪れ、帰国後旅の記録として冊子を作成しました。その文章及び写真を掲載します。

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フリーダム・トレイル:自由への軌跡
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ウォールデン池

-ウォールデン池は、さして大きくはなく、素晴らしく美しいにしても、際だった特徴はなく、雄大とか華麗などとは言えません。しばしば訪れて親しんだ人や近くに住む人でもなければ、深い関心は寄せないでしょう。ただ、この池は、深さと清浄さが特に素晴らしく、十分に記述するに値します。直径半マイル(約800㍍)、周囲1.75マイル(2.8㌔)、面積61.5エーカーの巨大な窪地にある、緑の澄んだ井戸です。・・・この池は、天と地の間にあるがゆえに、ふたつの色を見せるのかもしれません。遠く離れて丘の頂から見ると、ウォールデン池は空の色を反射して青です。ずっと近づいて岸辺から見ると砂に接する水は黄色みを帯び、いくらか深みに入ると明るい緑に、そしてさらに岸辺から遠い、池の本体である水は深い緑です。-
 『ウォールデン-森の生活』 第9章 池 


ウォールデン池畔にて

ウォールデン池

ソローは、コンコードを長期にわたって離れたことが一度もなかったそうである。16歳から20歳まで、ボストンにあるハーヴァード大学で学んだが、卒業式に出席せず、その日約30キロの距離を歩いてコンコードに帰ったそうなので、在学中も時々帰省していたのではないだろうか。そしてソローは「私は自分が世界で最も価値ある場所に、しかもまたとない時を選んで生まれたことを思うと、いつも驚きの念に打たれざるを得ない」と日記に書いている。コンコード及びウォールデン池という場所の意味と重要性が、彼にとっては確実に存在したのである。

僕がウォールデン池に対する妄想を肥大させ、はるばる日本からやって来て、その池畔に立った時、正直に言って直撃的にインスパイアされることなどなかった。鳥肌が立つようなショックを受けたわけでもなかった。そこでは、150年以上も前、ソローというまぎれもない生身の人間によって、真摯に、そして丁寧に自分の人生を貪り味わわれたであろう場面が、僕の頭の中に描かれたに過ぎない。その描かれた風景は、あくまでソローの生きた過去の独立した風景スナップであり、そこには現在に生きる僕自身は存在しない。僕個人から、僕のいる現在からは、まるでちょんぎられたトカゲの尻尾のような未練のない他人事の風景だった。全くリンクしなかった。リンクしようとすれば噛み切ってでも逃げていくような飄々とした風景だった。これには少々驚きだった。

でもその感覚は決して不快なものではなく、むしろ穏やかな心地よさと後味を伴っていた。そしてこの心地よさはひょっとしたらH.D.ソローという人間の、一途なまでの正直さを証明しているのではないだろうかと僕は思った。ソローは決して世の人の救世主になることを望んだわけでもなく、原理主義的な教祖としてドグマ的に崇拝されることを目指したわけではないと僕は思う。ただひたすら一人称(私)に徹して、授かった生を謳歌し、観察し、思索しただけである。

「人の為」と口走った瞬間に、それは「偽り」になる。自分に徹する正直さが、後人達に結果として影響を与えるのだ。自分に徹するがゆえに、後人達をみだりに不安に陥れず、ゆっくり確実に育てる結果となるのである。あくまで結果なのである。それにしてもその結果は、思いの外多大であった。ガンジー、トルストイ、キング牧師、マザー・テレサといった20世紀の巨星を育てた。でも、たとえそれが偉人であったとしても、あくまで結果なのである。目的であったわけではない。

ソローには、ソローのかけがえのないコンコードやウォールデン池があった。僕には、僕にとってのかけがえのないコンコードやウォールデン池があるではないか。それは己の大地母神(グレートマザー)に守られた場所であり、悠久の歴史を経て培われた共通感覚(コモンセンス)を有する隣人たちの住む地域社会である。

「本当に大切なものは目に見えないものです」と、サン・テグジュベリは星の王子さまに語らせている。昔も今もである。僕は持ち運びのいとも簡単な贈り物を、絶対に空港検査や税関に引っかからない目に見えない平和な贈り物を、ウォールデンから授かった。そして、やはり目に見えない城壁によって守られ繋がり合った隣人達のところへ、最高に気分良く帰ることができる。

帰ろう。僕のエデンの園に。僕の浄土に。
キャビン・サイトから空を仰ぐ


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