One’s Way[ワンズウェイ]のブログでは、里山暮らしのあれこれを綴ります。ヘンリー・ デイヴィッド・ソロー の影響を受け、エシカルな暮らしを追求中。薪ストーブを暮らしの核とし、菜園、ガーデニング、サイクリング、ランニングなどを楽しんでします。

■ 塩の道は自転車の道(その4:水を渡り、また水を渡る)2017/01/28

帆船海王丸、新湊大橋、そしてS.S.バイク
2014年7月に『月刊ニューサイクリング』誌に投稿した原稿です。その後、廃刊となり掲載されないままとなっていた内容をこのブログに掲載します。
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★ 水を渡り、また水を渡る(※2)

大型トラックに辟易し、庄川の河口に辿り着く前に僕は東に折れ、早々と橋を渡った。今年の春に開通した牧野大橋だ。

射水平野の田園風景の中をひた走り、富山新港の西岸に到着。ここから湾岸サイクリング・レーンに入る。そこは帆船海王丸が係留されている「みなとオアシス海王丸パーク」だ。

海王丸とは、かつての大型航海練習帆船で、1930年進水。約半世紀にわたり「海の貴婦人」として親しまれ、1989年引退。現在富山新港(射水市新湊地区)に係留されている。冬季を除き月に一度の割合でボランティアによる総帆天帆(そうはんてんぱん)が行なわれ、白い帆を広げた優美な姿が多くの観光客を呼んでいる。この日はどこかの小学生たちが遠足(?)で訪れていた。

しかし、いつからこの「海王丸パーク」が「恋人の聖地」になっていたのか僕は知らなかったのだが、そんなモニュメントがあった。そこは左に海王丸、右には新湊大橋が架かり、好天の日には立山連峰を望むことができる場所だ。

富山新港の西岸と東岸を結ぶ新湊大橋は、総事業費、何と約485億円を投じて2年前に完成した。道路は自動車専用道路(自転車通行不可)で歩行者は道路下に設置された「あいの風プロムナード」を歩かなければならない。プロムナードとは広辞苑によれば「散歩道、遊歩道」のこと。

では自転車は?サイクリストはどこを通ればよいのか?実はサイクリストは自転車を降り「あいの風プロムナード」を歩かなければならない。

何事も経験してみなければ意見を述べることができないので、僕は自転車を降り「あいの風プロムナード」を歩いてみることにした。プロムナード入り口のエレベータ乗り場へ辿り着く途中には、監視カメラ作動中の看板があった。

僕はエレベータで上へ上がり、左右をガラスで遮蔽された長い遊歩道を、自転車を押して歩いた。頭上を走る自動車の振動が伝わる。鉄道のガード下を歩いている感じだ。長さ480メートルを歩く間にすれ違った人はたった一人。眼下には同じく富山新港の西岸と東岸を繋いでいる富山県営渡船(越の潟フェリー)が見えた。渡船は新湊大橋開通以前から運航していた近隣住民の生活道である。

夏空の下、こんな日は潮風に当たりながら渡船で渡ったほうが気持ち良かったかもしれない。次回S.S.バイクで渡る時は、渡船に乗ろうと思う。渡航時刻表を事前に調べておいて。運賃は無料だそうだ。その方が新湊大橋の雄姿をじっくり眺めることができる。

海老江浜海浜公園(海水浴場)に到着した。
海開き直前で人の姿は皆無だった。この海水浴場は僕たち夫婦のお気に入りで、毎年一度は海水浴にやって来る。美しい松並木の防風林は無いが、砂浜に沿って芝生が敷かれ夏の青空に映える。シーズン中、全く浜茶屋は出現せず、浜の管理用テントひと張りと、カキ氷を売るテントが一軒だけ例年出現する。映画「めがね」(※3)に登場するサクラさんの氷屋とはいかないまでも、よしずで遮った浜辺の氷屋さんである。

僕たち夫婦がこの海水浴場を気に入っている点は、国際色豊かなこと。富山新港周辺には海を越えてやってきたロシアや中東国籍の住民が多い。中古車販売など母国との流通の仕事に従事しているらしい。透き通るような白い肌のファミリーが、シート一枚だけを持参してきて、浜辺で日光浴を楽しんだりしている。ごちゃごちゃとゴージャスなキャンプ道具に取り囲まれることなく、極めてスマートにたそがれるているのだ。

近くにはヨット・ハーバーもあり、遠くの水平線に帆が見える。加えてシャワー設備も整っている。いいねえ。「みんな、何が自由か知っている。」(映画「めがね」のキャッチ・コピーより)

神通川を渡る。
富山県は大きな河川が多い。神通川もそんな富山県七大河川の一つ。でも神通川には、拭い去れない(否、拭い去ってはいけない)暗い歴史がある。

日本近代化の暗部としての公害問題。「イタイイタイ病」で全国に知れわたった神通川。岐阜県神岡鉱山から神通川に排出されたカドミウムが下流の土壌を汚染した。客土・土壌改良といったいわゆる「除染」作業のとてつもない苦労と、取り返しのつかない被害の甚大さは、富山県民が最も肌身を通じて理解しているはずなんだけど。・・本当に大事なことは水に流してはいけない。

今回設置される予定の富山湾岸サイクリング・レーンは、富山湾の東の端から西の端までを繋ぐ。よってレーンが開通すれば、ルートは七大河川から小さな小川まで富山湾に流れ込む大小さまざまな河口近くを全て渡ることになる。

もしも将来、そんな河川の堤防沿いの既存道路にもサイクリング・レーンが設置されたとしたら・・河川をさかのぼって行けばそこは山。つまり海にも山にも恵まれたコンパクトな富山県が、新たに道路を造成することなくサイクリング・レーンで網羅されることになる。富山県内どこに住んでいようと最寄のサイクリング・レーンにアクセスされることになる。それは常に水の流れに沿った自転車道になる。いつかそんな日が来ることを僕は願っている。自転車は決して水を汚染したりしない。

※2 高啓の漢詩「胡隠君を尋ぬ」より引用
   水を渡り復た水を渡る
   花を看 環た花を看る
   春風江上の路
   覚えず君の家に到る

※3 映画「めがね」は2007年公開の日本映画。舞台は南国の島。

【写真説明】海王丸パークにて。帆船海王丸と新湊大橋の向こうには、天候に恵まれれば立山連峰を臨むことができる。

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