One’s Way[ワンズウェイ]のブログでは、里山暮らしのあれこれを綴ります。ヘンリー・ デイヴィッド・ソロー の影響を受け、エシカルな暮らしを追求中。薪ストーブを暮らしの核とし、菜園、ガーデニング、サイクリング、ランニングなどを楽しんでします。

■ FIXED BIKE BLUES-その2:ピストバイクからフィクスドバイクへ-2017/03/12

今は廃刊となっている『月刊ニューサイクリング』誌の2013年5月号に掲載された作品です。

 

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ピストバイクからフィクスドバイクへ

 

僕の住んでいる富山県は、冬季、雪に閉ざされる。

12月から2月までは屋外をバイクに乗って走ることが困難だ。この時期如何にしてフィットネスレベルを維持し、否、さらにパフォーマンスを高めるかが、雪国サイクリストとしての課題なのだ。

 

僕のメニューは、ランニング、ヒンズースクワット中心のウエイト・トレーニング、そして固定ギア(*1)のピストバイクによるローラー台トレーニングだ。ローラー台トレーニングは、120から130回転/分のペダリングで2分から5分もがくインターバルトレーニングを1時間行うものだ。これを飽きもせず27年間継続して行ってきた。ちなみにヒンズースクワットは大腿部が床と平行になるまで腰を落とすフルスクワットで1000回、時間では約1時間。これも27年間継続している。

 

①_1フィクスドバイク全体フォルム


①_2フィクスドバイク全体フォルム

冬場にこれだけルーチンなトレーニングをやっていれば、バイクで屋外を走ることができる春の到来が、「どれだけ歓喜に満ちたものなのか!」想像していただけるであろうか。

 

ランニングは多少路面に雪があったり、凍結していたりしても可能だ。雪国富山県とはいえ、遥か極北の冬と異なり、雪雲のさらに上空には一応太陽が昇っている。曇天でたとえ僅かな太陽光線であったとしても、それを浴びることができることは有り難い。また、雪によって空気中の塵などが払拭され、加えて適度な湿り気をもたらしてくれる。そして何よりも静かだ。雪が音を吸収してくれるのだ。そんな環境の中でランニングしていると、「何故、走るのか?」という疑問が湧いてこない。それより先に「走れること、それだけでうれしい。」という気持ちが湧いてくるからだ。

 

春がめぐり、バイクで走ることができるようになった時も然り。「走ることができる。これは何と有り難い事か!」という気持ちが湧いてくるのだ。人間は如何なる環境にも、身体のみならず精神をも適応させることができるのだとつくづく思う。世界には至るところにブルーズが流れているのだ。

 

多少なりとも自転車競技を続けてきた者として、冬場のオフシーズンは、固定ギアによるペダリングスキル練習やペダリング高回転練習は必須だ。ところが最近は、ピストバイクに対する世間の目が極めて厳しい。ピストバイクにとってブルーズィーな時代となった。

 

ブレーキを装着しないで公道を走り事故を起す輩が増えたためだ。言語道断である。ピストバイクが違法なのではない。ピストバイクの違法な乗り手が存在するのだ。しかし一方で、ピストバイクへの度を越した悪意の目にも少々危機感を感じる。

 

それは物事を一くくりで見がちの言わば全体主義の匂いだ。「ピストバイクというものは・・」「男というものは・・」「中国人というものは・・」「タバコというものは・・」「今どき、スマートフォンを持たない人なんて・・」等々。全てを単純・一般化して捉える思考と圧力の恐怖だ。

 

ピストバイクとは、トラック(自転車競技場)で競い合うためのバイクだ。トラック内ではブレーキを装備しない。トラック内でのブレーキングは危険だからである。公道を走る際は、必ず前後ブレーキ、ライト、反射鏡を付けなければならない。僕は毎日、トラックで練習できる環境にいるわけではないので、普段はブレーキを付けてのロードトレーニングをせざるを得ない。そして競技会の時はブレーキを外して参戦してきた。

 

アルミ板でサンドイッチして取り付けるタイプのブレーキ本体は、機能的にも視覚的にも個人的に好きではない。だから、ブリッジやフォーククラウン(*2)に最初からブレーキ本体の軸を通すことができるよう、ロードバイク用のブリッジ及びフォーククラウンでピストフレームを作ってもらった。よって僕のピストフレームはNJS(*3)規格ではない。

 

②_1サンシンのリアハブ


②_2サンシンのリアハブ

20歳代の時、固定ギアに馴染めず、サンシン(*4)製の両側にギアを取り付けることのできるハブを使って(今でも使用している)、片方には固定ギア、もう片方にはシングルフリーギア(*5)を取り付け、使い分けていた。

 

ところがシングルフリーギアというものは厄介なものである。歯数を変えたい時、固定ギアのように簡単に取替えができない。自分なりに一生懸命練習し、誠実に競技性を突き詰めていった結果、固定ギアにたどり着いた。一度雨の中の長時間練習で、シングルフリーギアのラチェット(*6)がうまく作動しなくなり、クランク(*7)が空転して走ることができなくなった経験もある。そもそもシングルフリーは実用車向けの部品であり、スポーツ向けではない。

 

現在は両側とも固定ギアで歯数を二種類にし、練習メニューやコースによって使い分けている。年齢を重ねるたびに最近はトラック競技会参戦もほとんど無くなってきた。しかし若かりし頃あんなに馴染めなかった固定ギアだったのに、今ではその簡明直截な感覚が心身ともに気持ちよく、依然としてピストバイクを走らせている。


最近の僕のピストバイクは、トラックを走るよりもロードを走ることの多いので、フィクスドバイク(FIXED BIKE、固定ギアのバイク)と呼んだほうが適当である。

 

[用語解説]

*1 固定ギア 競輪用自転車などトラック(ピスト)を走る自転車のギア。空転せず走っている時は脚の回転を止めることができない。空転するギアをフリーギアという。

 

*2 ブリッジ及びフォーククラウン フレームの部位。ブレーキ本体を取り付ける箇所

 

*3 NJS 日本自転車振興会の略称。競輪用自転車はNJS規格のフレーム及びパーツを使用しなければならない。NJS規格のフレームだとブレーキ本体を取り付けることが困難である。

 

*4 サンシン 自転車のハブ(ホイールの軸部分)のメーカー

 

*5 シングルフリーギア ギア板が一枚の非固定式ギア。通常実用車に使用されている。

 

*6 ラチェット フリーギアが空転したり回転したり機能するためには、ギア本体の中に爪が必要である。その爪をラチェットという。

 

*7 クランク ペダルがついている左右2本の棒


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