One’s Way[ワンズウェイ]のブログでは、里山暮らしのあれこれを綴ります。ヘンリー・ デイヴィッド・ソロー の影響を受け、エシカルな暮らしを追求中。薪ストーブを暮らしの核とし、菜園、ガーデニング、サイクリング、ランニングなどを楽しんでします。

■ さらばもう一度、アイルランド回帰の旅[僕がCOMPETITION BIKE(競走用自転車)にこだわる理由]-前編その4:Carrick-on-Suir -2017/03/26

今は廃刊となっている『月刊ニューサイクリング』誌の2013年6月号に掲載された作品です。

■ Carrick-on-Suir

アイルランド鉄道、二等車両の中で、車掌さんに、どう発音しても「キャリック・オン・シュア」を聞き取ってもらえなかった。「キャリック・オン・シュア(Carric-on-Suir)」は、ショーン・ケリーの故郷、アイルランド南部にある町だ。

車掌さんは観光地でもない田舎町にアジア系の人間が行くなんて想像できなかったのだろう。コミュニケーションは時として言語そのものよりも、非言語的メッセージの方がいかに重要かということだろう。

とにかく、おかげで何度も「キャリック・オン・シュア」と発音練習する羽目になり、しまいには「キャリック・オン・シュア」という固有名詞が、あるカントリーソングの冒頭の歌詞のように、その音色を聴いただけで郷愁を誘うような、そんな錯覚に陥ってしまった。

中世の城壁の生き残りのような、ひなびたキャリック・オン・シュア駅のプラットホームに列車が到着した。ところが列車のドアが開かない。押しても引いても駄目だ。「まだ発車しないでくれよ」と祈りながら、隣の車両のドアまで走り、何とか降りることができた。

「やれやれ、せっかく感動の第一歩をじっくりと味わおうと思っていたのに!」

その列車は僕たちの慌て様を嘲るように、そのあと5分ほどホームに停車していた。旅にはハプニングがつきもの。思い通りには事は運ばない。外は朝の雨が上がっていた。正午近くだったので、レンガ壁を這うアイビーが露を払い、アイルランドの大気に熱気を織り込み始めていた。


キスリングザックとキャッリク・オン・シュア駅
キスリングザックとキャリック・オン・シュア駅[1995年、キャリック・オン・シュア]


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